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モールス電信初心者が挑んだ第一級総合無線通信士(一総通)受験記

はじめに

この記事では、欧文と数字の符号をかろうじて覚えている程度のモールス電信初心者であった筆者が、2019年10月25日から2022年3月7日までの約2年4か月にわたって主として電気通信術の試験対策に取り組み、2022年3月8日から3月11日にかけて行われた第一級総合無線通信士(一総通)国家試験に合格するまでの過程等について、電気通信術の対策を主に述べます。

一総通とは何か

一総通は、第一級陸上無線技術士(一陸技)と並んで無線従事者資格の最高峰と称されることが多い資格です。無線従事者資格は、無線設備の操作範囲によって細かく区分されており、各種の無線通信士資格は無線設備の通信操作に、陸上無線技術士は無線設備の技術操作に対応する資格です。各種の無線通信士資格の中でも、一総通は全ての無線設備の通信操作(モールス電信を含む)が可能です。また、一陸技は全ての無線設備の技術操作が可能であることから、これら二つの免許を保有していれば、法令上は日本国内の全ての無線設備のあらゆる操作が可能になります。

一陸技の試験は、無線従事者国家試験の中でもポピュラーな部類に入ります。例えば、令和2年度に総合通信基盤局電波部電波政策課が発表した統計資料である無線従事者試験の実施結果(この資料は年度ごとに更新されるため、令和2年度分の資料を筆者がPDF化したものを置いておきます。)によると、一陸技の受験申請者は6,299名にのぼります。これは、全23種類ある無線従事者資格の中で一陸特に次いで2番目に多い数字であり、実際の受験者数(5,428名)に限って言えば最も受験者が多い資格でもあります。同年度の四アマの申請者数が2,349名ですから、意外なほどに受験者が多いと感じる方もいるかと思います。

一方、一総通の同年度の受験申請者数は267名です。一陸技の1/20未満の人数しか受験申請をしていません。一陸技と一総通の両方を持っていれば全ての無線設備の操作が可能になるわけですから、もう少し多くの人が受験していてもいいような気がしてきますが、実際にはそうではありません。その一因となっているのは一総通の国家試験の異様な難易度でしょう。267名の受験申請者のうち、実際に試験を受けたのは229名で、そのうちの合格者数は13名です。受験者数と合格者数の比を取った合格率は5.7%となります。一陸技の試験も比較的難易度が高いとされていますが、その合格率は26.8%です。合格率のみをもって異なる種類の試験の難易度を単純に比較することはできませんが、目安として一陸技の合格率の1/5程度の数字であることは分かります。

もっとも、一総通の受験者が少ない最大の理由は、その使いどころがないことだと思われますが。

一総通の何がそこまで難しいのか

一総通を難関たらしめているのが、試験科目の一つである電気通信術です。一総通の試験は、無線工学の基礎・無線工学A・無線工学B・法規・英語・地理・電気通信術の7科目で構成されていますが、電気通信術のみが実技の科目です。電気通信術はモールス電信(受信(和文・欧文普通語・欧文暗語)・送信(和文・欧文普通語・欧文暗語))、電話(受話・送話)および直接印刷電信という9種類の課題に細分されます。このうち難易度が高いのがモールス電信です。和文は75文字/分、欧文普通語は100文字/分、欧文暗語は80文字/分というスピードで送られてくる符号を、約5分間指定された様式の用紙に書き取り、また同様のスピードで約5分間送信しなければなりません。

時折SNS等で、モールス電信の試験のスピードについて、アマチュアの交信でも普通に用いられる程度の速度なのではないかという指摘があります。これはおそらく正しい指摘です。しかし、アマチュアの交信においては、送信されてきた符号を必ずしも全部筆記する必要はありません。一方、試験では送信されてきた符号を基本的には全て筆記する必要があります。どちらかが優れていて、どちらかが劣っているということを言いたいわけではなく、求められる技能の種類が異なるということです。一総通の試験においては、すべての情報を正確に送受信することが基本のラインとして要求されるわけです。

筆者について

各種資格の受験記を読むにあたっては、その受験記の筆者がどのようなバックグラウンドを持っているかが分かると、どのような姿勢で読むべきかが分かります。というのも、資格試験の難易度は絶対的なものではなく、受験者のバックグラウンドを反映した相対的なものであると言えるからです。例えば、通信工学に関する教育を受けたことがある筆者による一陸技の受験記と、そうではない筆者の一陸技の受験記とでは、同じ読者が読んだときにそれぞれの受験記から受ける印象は異なることが予想されます。前者の筆者にとってはそう難しくない試験に感じられた一方で、後者の筆者にとっては非常に難易度の高い試験に感じられたかもしれません。その感覚は体験記の書きぶりにも反映されることになるでしょう。そのため、本記事についても、一総通の受験に関係すると思われる筆者のバックグラウンドを可能な限り記します。これを踏まえて、筆者の感想を割り引くなり下駄を履かせるなりして読んでいただければと思います。

筆者略歴

無線従事者免許取得歴

英語に関する資格等

なお上記は、一総通受験にあたってこのような経歴・経験が必要であると主張するものではありません。

モールス電信の経験は必要か否か

一総通の受験にあたって、筆者は一陸技の免許保有による科目免除(無線工学の基礎・無線工学A・無線工学B)を受けました。専門ではない(大学院等における研究テーマのど真ん中ではないという意味で)とはいえ、電磁気学や通信工学に関する教育は受けていたので、一陸技の対策は比較的容易であったという印象です。一方、モールス電信に関する経験は皆無に近かったと言えます。筆者が三アマを受験した年に、ちょうど国家試験からモールス電信の音響受信が削除されました。というよりも音響受信がなくなったので三アマを受けたというのが正しいです。当時、そもそもモールス電信に興味がなく練習をする気になれなかったのです。その後一アマを取得しましたが、この際にも音響受信は試験から削除されていました。いずれの試験のときも、欧文と数字の符号を文字情報としてかろうじて覚えていた程度であり、一アマの試験ではその記憶すら怪しく、モールス符号に関する問題では一か八かで選択肢を選びました。

アマチュア局の免許は、三アマを取得したころから維持していますが、それほど熱心なアマチュアではありません。ときどき電話で電波を出す程度です。免許上はモールス電信の電波を出せることにはなっていますが、一総通の試験対策を始めた時点においても、また本記事を執筆している時点でもモールス電信で交信をした経験は一切ありません(無いことの証明をすることは困難ですが、どなたのログにも私とモールス電信で交信した記録は無いはずです)。というわけで、記事のタイトルにも書いた通り、筆者はモールス電信初心者だったと言ってよいと思っています。

これは余談ですが、せっかく一総通に合格できたので、今後はモールス電信でも電波を出してみようと思っています。もし見かけたらお相手いただけると嬉しいです。これも余談、かつ筆者の愚痴ですが、アマチュアの国家試験のノーコード化のことを表現する言葉として「格下げ」が使われることが時折ありますが、制度変更後にこれらの試験を受けた者として、あまり気分の良いものではないです。

一総通に関する受験記をWebで検索するといくつか記事が出てきますが、そのうち試験に合格した方はアマチュアとしてモールス電信に関してある程度経験を積まれた方が多い印象を受けます。この点に関しては、KANNA JH1CFW(@p_delta_v, twitterアカウント(以下同様))氏による第一級総合無線通信士 受験記でも指摘されている通りかと思います。しかし、前述のKANNA氏の受験記や、筆者とほぼ同時期に一総通の対策に取り組み見事合格されたえるまー(@hermer)氏の【受験記】第一級総合無線通信士 (合格)、および今回の筆者の経験から、モールス電信に関する経験があることはポジティブに作用すると思われるが、合格のための十分条件ではないという確信を得ました。もちろん、経験はアドバンテージになりますが、未経験者であっても合格は可能だと言ってよいでしょう。本記事が、モールス電信経験者・未経験者を問わず、一総通受験の一助となれば幸いです。

試験に関する準備

一総通の受験にあたってはそれなりの準備が必要になります。もちろん、電気通信術の練習が最大の準備ではあるのですが、その練習を始める前の準備が重要です。

試験に関する情報収集

一総通を受験する決意を固めたら、まず第一の段階として試験に関する情報を収集しましょう。しかし、一総通は受験者が非常に少ない試験です。この記事を見つけた時点で、もしかするとかなり試験に関する情報を集めた段階かもしれませんが、とにかく情報が少ないことに気づくことと思います。「総合無線通信士」という検索クエリをGoogle検索に投げると、本記事執筆時点では、トップに無線従事者国家試験の指定試験機関である日本無線協会のページが、2番目に Wikipedia の総合無線通信士の記事がヒットします。これは筆者の私見ですが、この検索クエリの上位で、試験に関する具体的な情報が出てくるのはこれら2つのページぐらいかと思います。ただし、Wikipedia の記事は、多分に当該記事の筆者の私見が盛り込まれている印象を受けるので鵜呑みにしない方が良いでしょう。同記事には、

モールス符号の音響受信は非常に高速であるため(昭和58年3月まで第一級無線通信士の電気通信術(モールス電信)は和文が1分間85字、欧文暗語が1分間100字、欧文普通語が1分間125字で上述の「第一級無線電信通信士」の記載条件である。) 欧文では筆記体による速記術を習得しなければ対応が困難なほどである。 また、内容は電報形式による額表があり、単に送受信できるだけでは合格は覚束ない。

総合無線通信士 – Wikipedia(2022年4月2日閲覧)

という記述があります。これを読むと筆記体の習得がほとんど必須のような印象を受けるかと思いますが、必ずしもそうではありません。実際、筆者はブロック体の小文字(に b と l の筆記体を混ぜたもの)で筆記して合格しました。旧一通の速度も書かれていますが、一総通の速度とは異なります。

アフィリエイトを主目的としているように見受けられるページにも一総通に関する情報が掲載されていますが、情報が古かったり、Wikipediaの記事の焼き直しだったり、あるいは明らかに誤っている情報が掲載されていたりと、あまり有益でない時間の使い方をすることになるでしょう。各種のQ&Aサイトにも一総通に関する質問と回答が載っていたりしますが、謎の自信に満ちた(婉曲表現)回答があふれており、受験のモチベーション低下にもつながりかねないので、閲覧することはあまりお勧めしません。アクティブではないようですが、某匿名掲示板にも一総通をトピックとしたスレッドが存在します。しかし、こちらも同様の理由でおすすめしません。

第一義的には、一総通を所管する総務省や総合通信局、指定試験機関である日本無線協会が公開している情報を参照してください。また、電波法やその下位法令(無線従事者規則など)を参照するのもよいと思います。ただし、こと一総通に関してはこれらの情報のみでは試験対策は難しいと思われます。一総通の受験を経験された方々が書かれた受験記を参照することで、実際の試験の進められ方や、電気通信術の電文の形式、あるいは試験対策に関するヒントを得ることができるでしょう。「総合無線通信士 受験記」「総合無線通信士 体験記」など、様々な検索クエリで情報を探してみてください。もし、幸運にも身近に一総通の受験を経験された方がいれば、ぜひその体験を聞かれるとよいと思います。

電気通信術の電文の形式・採点基準を知っておく

一総通の電気通信術のうち、モールス電信の電文は「電報形式」と呼ばれる形式に従って受信と送信を行うことになります。これが具体的にどのような形式であるかを定めているのが、平成2年12月3日郵政省告示第721号「無線従事者規則第三条の規定による電気通信術の試験の方法」です。総務省のページで公開されている(https://www.tele.soumu.go.jp/horei/reiki_honbun/a723550001.html)ほか、日本無線協会のページ(https://www.nichimu.or.jp/vc-files/denpa/pdf/h03.pdf)でも公開されているので、まずはこれらを参照してください。

和文では意味のある日本語の文章、欧文普通語では意味のある英語の文章、欧文暗語では意味のないアルファベット5文字の集合の羅列が送られてきます。欧文の電報形式は、項目(名あて、本文など)の間に区切りの記号があるためそれぞれの分離が比較的簡単なほか、単語間にもスペースがあるため筆記にほんの少し余裕があります。しかし、和文の場合は欧文の単語間のスペースに相当するものが一切存在しません。和文の各項目の間には区切り記号があったりなかったりしますが、たとえその記号が分かっていても、それだけでは特に受信への対応が困難です。これについては、電気通信術の練習の節で詳述します。

また、電気通信術については、その採点基準についても正しく理解しておくべきです。電気通信術の採点は減点方式によって行われます。モールス電信の和文・欧文普通語・欧文暗語の送信および受信は、それぞれ持ち点が100点与えられており、送信で合計300点、受信で合計300点となっています。ここから、以下のような採点基準に従って点数が引かれていきます。

採点区分点数
送信誤字、脱字、冗字1字ごとに   3点
符号不明りょうまたは発音不明りょう1字ごとに   1点
未送信2字までごとに 1点
訂正3回までごとに 1点
品位       15点以内
受信誤字、冗字1字ごとに   3点
脱字、書体不明りょう1字ごとに   1点
抹消、訂正3字までごとに 1点
品位       15点以内
電気通信術の採点基準

モールス電信の合格の基準として、和文・欧文普通語・欧文暗語の合計が210点以上で30点未満のものが無いことと定められており、これは送信も受信も同様です。平均すると、和文・欧文普通語・欧文暗語のそれぞれで70点以上を獲得できれば合格ということになりますが、70点とは符号の70%が正しく送信あるいは受信できればよいということではありません。例えば、和文の受信の場合は75文字/分の速度で約5分間符号を受信することになりますので、トータルの文字数は約375文字ということになります。このうちの7割が正しく受信できればよいのであれば、約263文字受信できれば十分なわけですが、そう簡単ではありません。上の表に示したように、誤るごとにどんどん点が引かれてゆきます。誤字であれば1字ごとに3点引かれるので、10文字誤って筆記しただけで既に30点の失点になります。比較的ダメージが少ないのが脱字で、1文字ごとに1点減点されます(送信では3点減点)。実際に送信や受信の練習を始めてみると、この採点基準のハードルがかなり高いことが実感されると思います。しかしそこで絶望せずに、粘り強く練習を続けるほかありません。

より詳細な採点基準等については、筆者が2020年に総務大臣に対して情報公開請求を行って開示を受けた「無線従事者国家試験実施基準」に記述されています。採点基準の中の謎の採点項目「品位」とは何なのか、書いても減点されない(不問の扱い)文字にはどのようなものがあるのか、などが書かれています。この実施基準の法的効力に関する考察なども記事にまとめているので、ぜひご参照ください。

2022年より、無線従事者国家試験の一部がCBTで行われるようになりました。これに伴って無線従事者国家試験実施基準(あるいはそれに相当する文書)が更新されていることが予想されます。しかし、e-Govの「行政文書ファイル管理簿の検索」から簡単に検索してみたところ、今のところ発見できていません。おそらく、電気通信術に関する部分に変更は無いと思いますが、どなたか開示請求の上、公開していただけると助かります(2022年4月13日追記 行政文書開示請求を行ったところ、総務省総合通信基盤局より、表紙に「平成23年6月15日現在」の表記がある無線従事者国家試験実施基準が最新であるとの回答を得ました)。

受信練習の教材・道具の準備

練習用音声

現在入手可能な電気通信術の教材は限られています。モールス電信の練習をするにあたって、まず受信練習に使える音源がないかということを考えるかと思いますが、現在市販されているのは情報通信振興会「モールス通信練習用CD(2枚組)」(https://www.dsk.or.jp/eshop/products/detail.php?product_id=1304)が唯一と思われます。このCDには一・二・三総通および国内電信級陸特のモールス電信の試験形式で電文の音声が収録されています。しかし、収録されている電文が多くはないため、毎日練習に使用していると、そのうち内容を覚えてしまうため練習の効果が低下します。そのため、実際の練習では後述する各種ツールを活用することをおすすめしますが、試験の速度や電文の形式のリファレンスとして一つ備えておくと安心感があります。

これは信頼できる筋からの情報ですが、このCDは情報通信振興会の前身である電気通信振興会がカセットテープで販売していた音源をそのまま再録したものだそうです。音声がややノイジーで、所々音量がふらつくのはそのためのようです。ただし、符号音は自動生成ではなくストレートキーによる手打ちだそうなので、プロの技能を感じることができます。

モールス通信練習用CD(2枚組)

用紙

モールス電信の電文は電報形式のフォーマットに従って送られてくるということはすでに述べましたが、それを筆記する用紙のフォーマットも決まっています。日本無線協会の国家試験についてのFAQ(https://www.nichimu.or.jp/kshiken/faq/index.html)には、その受信用紙のフォーマットが掲載されています。電報形式の受信練習をする際にはこの受信用紙を使用します。掲載されている用紙を自分で印刷してもよいですし、情報通信振興会が販売している「和文受信用紙」(https://www.dsk.or.jp/eshop/products/detail.php?product_id=1714)や「欧文受信用紙」(https://www.dsk.or.jp/eshop/products/detail.php?product_id=1314)を使用してもよいです。どちらが安価に済むかというのが気になるところですが、販売されている用紙は両面印刷50枚綴り100ページで330円(税込み)(記事執筆時点)なので、1ページあたり3.3円です。一般的な家庭用インクジェットプリンターの印刷コストと同程度と思われるのでどちらもあまり変わりはなさそうですが、インクジェット特有の線のにじみが無いこと、紙質が筆者に合っていたことから情報通信振興会のものを購入して使用しました。いずれも5綴りずつ購入しましたが、和文は5綴り全て、欧文は4綴り消費しました。

欧文受信用紙

ただし、日常の受信練習のほとんどでは、一般的な大学ノートを使用していました。筆者の場合、電報形式の習熟練習は試験前2か月程度から始めたため、それ以前の練習ではほとんど受信用紙を使用しませんでした。

筆記具

受信練習や試験の際に、筆記具に何を使うべきかというのは関心事の一つかと思いますが、これに関しては各自が使いやすいと思うものを使ってくださいと言うほかないと思っています。筆圧の高低や書き方の癖など、筆記具を決める要素は複数あると思われるためです。参考までに筆者の場合を述べますが、練習開始当初から試験当日まで、一貫してシャープペンシルを使用していました。最初はアルミ製の 0.5 mm (HB芯)の製図用シャープペンシルを使用していましたが、本体が重たくて重心が高くて手が疲れる感覚があったほか、芯が細くて紙に食い込む感覚がありもう少し適した筆記具がないか探しました。最終的に落ち着いたのは、同じく製図用のシャープペンシルですが、樹脂軸のステッドラー 925 15-07 という0.7 mm のシャープペンシルとメーカー純正のHB芯を組み合わせたものでした。軽量で疲れづらく、書き味も程よく柔らかくなり、練習がすこし楽になった感覚がありました。筆者は比較的筆圧が高いと自認していますが、このペンに変えてから筆記中に芯が折れることは一度もありませんでした。しかしあくまで一例に過ぎません。自分が一番気に入った筆記具を使用するのがベストでしょう。なお、試験中に誤字を認識できた場合にこれを消しゴムで消して修正できるかですが、符号の速さや通間の休止時間などを踏まえてもかなり難しいと思われます。消しゴムで消して訂正できることはシャープペンシルや鉛筆のアドバンテージとは言いづらいです。

STAEDTLER 925 15-07 と純正替え芯

送信練習の教材・道具の準備

送信練習用の教材も、受信練習用の教材と同じくほとんど選択肢がありません。しかし、送信練習に関しては、市販されている教材のみで完結できたというのが筆者の感覚です。ただし、送信練習の準備を始めるにあたって決めておくべきことがあります。それは、送信の道具として縦ぶれ電鍵を使用するか、自動電鍵(エレクトリックキーヤー+パドル、以下便宜的にエレキーと呼ぶ)を使用するかです。かつての国家試験ではエレキーの使用は認められていませんでしたが、現在の国家試験では認められています。先に触れた「無線従事者国家試験実施基準」には次のような定めがあります。

エ 使用する電鍵は、原則として、備え付けのものを使用させるものとする。ただし、受験者が独自に持参する場合には、次の条件を満たすものに限り、その使用を認めるものとする。
(条件)
電鍵のつまみを操作することによってそれぞれ単一又は連続して点又は線を送出するもので、モールス符号を構成する点及び線の組合せを自動的に送出するものでないものとする。

無線従事者国家試験実施基準(別紙4)電気通信術の試験の方法

この条件の意味するところは、いわゆるメモリキーヤーの使用が不可であることを意味すると理解できます。よってエレキーそのものの利用は可能です。ただし、先に触れた「無線従事者規則第三条の規定による電気通信術の試験の方法」には、

電気通信術の試験(以下「試験」という。)は、運用規則別表第一号のモールス符号を使用し、あらかじめ備付けの装置を操作することにより行うものとする。ただし、受験者が持参した電鍵であって、指定試験機関が適当と認めるものを使用する場合は、この限りでない。

無線従事者規則第三条の規定による電気通信術の試験の方法 一モールス電信

との記述があるのみです。何も言われないと思いますが、試験執行員にエレキーを使用する旨を述べるのが適当でしょう(以前は日本無線協会のページにも「電鍵のつまみを――」のくだりの記述があった気がするのですが……)。

筆者は早々にエレキーを使用して受験することを選択しました。独学で縦ぶれ電鍵の送信技能を試験合格レベルまで到達させる自信がなかったためです。そのため、以下はエレキーを使用しての練習及び受験に関する記述となります。縦ぶれ電鍵で受かりたいという憧れもありましたが、エレキーの操作の簡便さには勝てませんでした。ただし、いずれの方法で受かっても免許に一切の差はありません。エレキーだからと卑屈になる必要はないはずです。

送信練習用電文

送信練習用の電文は自分で用意してもよいですが、情報通信振興会が販売している「欧文電報送信練習帳」(https://www.dsk.or.jp/eshop/products/detail.php?product_id=1315)と「和文電報練習帳」(https://www.dsk.or.jp/eshop/products/detail.php?product_id=1715)を使用しました。いずれも、電報形式に従った練習課題が収録されています。課題の量が結構豊富なので、受信練習用のCDとは異なり、繰り返し練習しても電文を覚えて練習の効果が低下するような感覚はありませんでした。下の写真に、筆者が実際に使用したこれら2冊を示していますが、特に欧文電報練習帳は表紙が擦り切れてくる程度に使用しました(おそらく10周以上回したと思います)。

欧文電報送信練習帳と和文電報練習帳

キーヤーとパドル

エレキーによる受験を決意したら、キーヤーとパドルは必須です。キーヤーには符号メモリ機能が無いものが必要ですが、探してみると意外に種類がありません。この記事の執筆時点において、一総通の試験で使用可能なキーヤーとして必要な条件を満たしており、入手性もよいものは、株式会社TAMが製造販売している TAM-KEYER102(https://products.tam.co.jp/product/tam-keyer102) です。同社のサイトには、

アマチュア無線でのモールス運用はもとより、総合無線通信士受験を意識して開発しました。
(メモリ機能はありません)

TAM-KEYER102 | 株式会社TAM 製品サイト(2022年4月3日閲覧)

とあり、試験に適したつくりになっています。サイドトーンが 780 Hz の正弦波で出力されるため、長時間練習していても、耳が疲れにくい感覚がありました。もちろん、持ち込み可能な電鍵の条件を満たしさえすれば、自作してもよいです(筆者も最初は自作するつもりでしたが思ったより練習が大変で市販品を買いました)。

パドルは各自が好みのものを使用すればよいと思いますが、筆者の場合はGHDキー社の GN607F(http://www.ghdkey.com/pp8.html)を使用しました。送信練習の開始当初は、同社の GN807F を使用していました。こちらも優れたパドルだと思いますが、接点が接触したときに発生して指先に伝わってくる振動が強めに感じられ、長時間練習を続けていると指先が疲れやすい感覚がありました。練習開始当初は、モールス電信の初心者だったこともあり、「まあこんなものだろう」「スイッチを変えた程度で練習の効率が変わるとは思えない」という態度でいました。しかし、ふと出向いた無線機ショップで同社の GN507F(GN607Fとメカ部が共通で台座の形が異なるモデル)を試しに打ってみたところ、接点が接触したときの感覚が大変軽いことに驚きました。帰宅後、デザインが好みだった GN607F をオンラインショップで購入し、以来使い続けています。余談ですが、弘法筆を選ばずということわざは呪いに近い言葉だと思っています。いかなる道具でも結果を出せてこそという思考に陥ることはしばしばあるかと思いますが、これは程度の問題です。道具を変えた瞬間に技能が向上するということは考えにくいですが、道具によって技能向上のための余計な努力を強いられている可能性は十分にあります。パドルに限らず、前述の筆記具等も含め、自身が十分に納得できる道具を使うことはモチベーション維持に寄与すると思います。

このほかに必要になるのは、キーヤーと会場に設置されている電鍵の端子を接続するケーブルです。会場に設置されている電鍵と試験執行員が符号音を確認するためのコードモニターはY型端子付きのケーブルで接続されていました。このY型端子をはさめるようなミノムシクリップ付きのケーブルを作製して試験会場に持ち込みました。

TAM-KEYER102 と GN607F

電気通信術の練習

モールス電信の練習を始めてみると、送信と受信では、受信の方が圧倒的に難しく感じられると思います。符号を覚える必要があるという点においてはどちらも変わりませんが、そのあとのプロセスが異なります。送信の場合は、文字を見て符号を想起し、その想起された符号を打ちながらサイドトーンを聞いて、実際に打たれた符号が想起した符号と一致するかを確かめながら打鍵する、というのが一文字のプロセスかと思います。このとき、符号音の終了と、手の動作が終了するタイミングはほぼ同じです。一方受信の場合、符号音を聞き取って、その符号音に対応する文字を想起して、想起された文字を紙に書き取るという流れになります。このとき、符号音が終了しても、手の動作はその時点では終了しません。(基本的には)全ての符号音が流れないと、書き取るべき文字を確定できないからです。さらに、想起された文字を紙に書き取る、というのがかなり時間を要するプロセスであることが難易度を高めます。欧文普通語では1分間あたり100文字を書きとることになりますが、平均すると1文字あたり 600 ms 使えることになります。しかし、実際には単語間にスペースがあるほか、文字によっては短点1個(E)や長点1個(T)など短い符号が存在したりします。ゆえに、文字によっては百数十 ms での応答が求められます。これに対応するために、受信練習で鍛えることを要求される技能の一つとして、高い書字速度があります。しかし、百数十 ms の間に文字を書くことは実際問題として不可能に近いので、実際には聞き取った符号から想起された文字を脳内に数文字バッファリングして書き取ることになります。いわゆる「遅れ受信」と呼ばれる技能ですが、これを実現するためには「符号音に対応する文字を想起する」プロセスに要する時間を相当短くする必要があります。そのため、音と符号をなるべく短時間で結びつける技能も、受信練習で鍛えることを要求される技能となります。これらの技能は一朝一夕に得られるものではありません。あまり精神論のようなことは言いたくないのですが、こればかりは練習を重ねるしかないというのが筆者の見解です。

受信練習

ここからは、実際に筆者がたどった受信練習のプロセスをなぞっていきます。モールス電信練習のセオリーとして、欧文の符号は和文の符号のサブセットなので、先に和文から覚えてしまう、というものがあります。電気通信大学のかつての通信士養成課程などでもこれにのっとって訓練が行われていたようですが、筆者は欧文からスタートしました。というのも、欧文の符号ですら怪しい状態で、欧文より多い和文の符号を覚えきる気力がわかなかったためです。邪道なのかもしれませんが、特に独習においては自分のモチベーションは自分で面倒を見なければならないので、ある程度レベルを落としても達成可能なマイルストーンを設けてあげることが必要になるのではないでしょうか。結果として練習の効率は低下したかもしれませんが、最後までやり通すことができたのでよかったことにしておきます。

また、練習にはいわゆる音感法と呼ばれる方法を採用しました。音と書き文字を直接対応付ける練習法です。比較的高速な受信に適した練習法だと言われていますが、欠点として練習がひたすら大変という点が挙げられます。練習の最初から最後まで(電報形式の練習は除く)、欧文和文ともに25 WPM(PARIS速度、50短点分(PARISを規定通りに打鍵すると50短点分の時間になる)を1単語の長さとして1分間の単語数(words per minute)に換算する符号速度の表現方式)で練習を行いました。特に練習初期の成果が出づらく正直辛かったですが、熟達するにしたがってこの方式で練習しておいて正解だったという感覚でした。25 WPM という速度は情報通信振興会のCDよりも速いですが、試験に余裕をもって臨むため、大変ですが速めで練習することをおすすめします。

受信練習の際は、一通り筆記が終わった後に自分がどの文字を誤り、どの文字を落としたのかを把握しておくことをおすすめします。私は、誤字は赤色で修正、脱字は青色で追記するようにして、これを把握するようにしました。すると、苦手な文字や記号の傾向が分かってきます。これを意識して練習するだけで苦手符号の克服が早くなりました。

試験会場ではスピーカーから符号音が再生されます。そのため、部屋の構造物による反響が生じたり、符号音以外のノイズも混ざります。練習の際もスピーカーを使用するのが一番良いと思いますが、そうもいかないシチュエーションも多分にあると思います。ヘッドホンを使用すると反響もノイズも押さえられてしまうので、やや試験の条件とは異なって受信しやすくなってしまいます。そこで、筆者は折衷案として骨伝導ヘッドホンを利用して練習していました。反響を再現することはできませんが、外音が常に聞こえる状態にあるため、ある程度の外乱に対する抵抗力は身に着くと思います。もっとも、実際の試験では反響もノイズも気にならないほどに集中せざるを得ませんでしたが……。

欧文符号の定着

まずは符号音と文字を対応付ける練習から開始しました。この練習には、JH1LHV氏が開発し、頒布されている Learning Morse (https://www.jh1lhv.tokyo/software)を使用しました。このソフトウェアでは、指定した文字で暗語形式の課題文を生成して符号音を出力できるほか、直接入力した文字を符号音として出力することも可能です。符号間のスペースを、最初のうちは長くしておき徐々にこれを短くしていくことで、符号を覚えると同時にスペースを短くしていきます。符号音を聞いて、文字を想起し、紙に書き取ることが十分にできるようになるまで練習を繰り返しました。

Learning Morse

暗語形式での練習

ある程度の速度で符号音から文字を想起して筆記できるようになった段階で、JA7UHV S. Yamase氏が開発・頒布されている A1A Breaker (http://hp.vector.co.jp/authors/VA041117/ja7uhv/download.html)を使用した暗語形式での練習を開始しました。このソフトウェアは各級総通および国内電信級陸特の試験対策用として定評のあるソフトウェアであり、情報通信振興会がかつて刊行していた無線従事者受験誌『電波受験界』でも紹介されたことがあります。様々な機能があるので、実際に色々触ってみていただくのが一番わかりやすいかと思います。筆者はその中でも欧文暗語形式の受信練習での使用をメインとしていました。A1A Breaker の欧文暗語の課題文生成では、欧文符号に加えて数字を混ぜることができ、なおかつ数字の出現頻度を「高」「中」「低」から選択することができます。試験の欧文暗語では、本文中に数字が出題されることは(おそらく)無いのですが、Preamble 部には必ず出てきます。また、欧文普通語の本文には数字が混ざることがあります。実際の試験課題文での突然の数字出現に慣れるため、数字の出現確率を「低」にした暗語を生成して受信練習をしました。

A1A Breaker

普通語への対応

欧文暗語形式が筆記できるようになってくるとある程度の自信が付いてきました。これぐらい聞き取れるのであれば普通語も筆記できるのではないだろうかという思いから、情報通信振興会のCDに収録されている普通語の課題にトライしてみました。するとこれが驚くほど書き取れません。というのもの、欧文のモールス符号は文章中のアルファベットの出現頻度を考慮したものになっているため、たとえ符号の速度が同じでも、ランダムな5文字の集合の羅列である暗語と一般的な英語の語彙が並ぶ普通語では、単位時間当たりの符号の数が異なってくるのです。そのため、普通語をターゲットとした対策を行うことにしました。A1A Breaker には普通語の課題文生成機能もあるため、当初はこちらを使用していましたが、デフォルトで収録されている課題文には限りがあるため、より実践的な練習とするためには自分で課題文を追加する必要があります。しかし、その作業に時間を費やすのがはばかられたので、よいツールがないか探していたところ、JI1JDI(@ji1jdi)氏が開発・公開されているモールス練習帳(https://ditdah.undo.jp/morse-trainer/)にたどり着きました。アプリ内にはいくつかのモードがありますが、普通語対策としてランダムな英単語の羅列が生成される「欧文(英単語)」のモードが非常に効果的でした。普通語の練習をする上では、課題文が意味のある文になっている必要はありません。ワンクリックで毎回異なる英単語列を生成できるため、毎回異なる課題での練習がストレスフリーに実施できます。また、このアプリはWebブラウザ上で動作するため、PCやスマートフォンなどのプラットフォームを選ばずに利用できる点でも優れています。

モールス練習帳 受信練習 欧文(英単語)モード

欧文普通語が筆記できるようになってくると、欧文符号の定着練習を開始したときと比べて書字速度が大幅に向上しており、これに伴って書く文字の雰囲気も大きく変わっていることに気づくと思います。筆記に適した字形への最適化が行われていると考えることもできますが、あまり汚くなっていたら注意が必要かもしれません。せっかく正解の文字が分かって筆記したのに誤字と判定されるのはつらいものがあります。ときどき見直してみるのもよいかもしれません。参考までに、筆者の練習初期、中期、終期のノートを示します。練習初期はかなり丁寧に筆記していることが分かりますが、中期、終期に向かって、よく言えば字体が最適化されて、悪く言えば雑になっていることが分かります。これぐらいの字でも合格点をもらうことはできました。

和文符号の定着

欧文普通語がある程度筆記できるようになった段階で、和文符号の定着練習を始めました。実は、この時の筆者の懸念として、欧文と和文に同一の符号が存在するため、欧文の練習中に和文の練習を始めると両方の想起される文字が混ざって混乱し、パフォーマンスが低下するのではないかというものがありました。しかし始めてみれば、和文の練習開始のごく初期に混乱があった程度で相互にパフォーマンスを低下させるようなことは起こりませんでした。この懸念のために和文の練習開始を先延ばしにした節があるのですが、今思い返せばもっと早く和文の練習を始めていれば、より短い期間で和文欧文両方が試験合格レベルに達していたのではないかと思います。

和文符号の定着練習には、欧文符号の定着練習と同様に Learning Morse を使用しました。欧文と同様、和文も5文字単位区切りの課題文を生成するのですが、これは試験の電文の形式とは異なります。しかし、符号の定着練習を行うにあたっては、5文字ごとに小休止が入るぐらいの難易度がちょうどよいように思います。

なお、和文で「ヰ」と「ヱ」の出題の有無が気になる方もいるかと思います。過去の受験記を参照すると、送信では出たが受信では出ていないといった記述が見受けられます。実際、筆者が受けた試験でも送信では出題されましたが、受信では(おそらく)出てきませんでした。ただ、法令上、これらが受信で出ないとはどこにも明記されていません。出るか出ないかで不安になるよりは、最初から出るものとして覚えてしまった方が良いと思います(筆者も覚えました)。

和文ランダム文字列での練習

定着練習である程度の技能を身に付けられたと思った段階で、今度は5文字ごとの区切りの無いランダムな文字の羅列での練習を行いました。この練習にはモールス練習帳の「和文(暗語)」モードを使用しました。実際の試験では約375文字筆記することになるため、それに近い文字数を設定してノートに筆記することを繰り返しました。一切の区切りなしに送られてくるため、5文字区切りとの難易度の落差は大きいものがありますが、これも慣れてくるもので意外となんとかなってゆきました。なお、この練習は本番の受信用紙が約 10 mm の方眼であることを踏まえ、主に小学生向けに販売されている 10 mm 方眼のノートを使用しました。大学ノートでは文字サイズや字間は自由に筆記できる一方、方眼の場合は字間が固定されます。方眼にスムーズに筆記するためにはある程度の慣れが必要です。

モールス練習帳 受信練習 和文(暗語)モード

電報形式への習熟

ここまでで欧文、和文ともに、かなり筆記できる能力を身に着けることができました。と簡単に言いましたが、筆者の場合はここまでで2年ほどかかりました。当初、2022年9月期の試験を受けるつもりだったのですが、とりあえず一回同年3月の試験を受けてみようと思い立ち、1月中旬に受験申請をしました。しかし、腕試しのつもりで申し込んだとはいえ何の結果も残せないと悔しいという思いが沸き上がり、申し込みの直後から電報形式での対策を始めました。この際に大変活用させていただいたのが、ソウヘイ JH1CFV(@hsohei)氏が開発・公開されている「日替わり 通信術練習(モールス受信)」(https://cheb.sakura.ne.jp/cwexercise/)です。試験の電報形式に準拠した和文と欧文(暗語・普通語)の課題文を日替わりで生成するアプリで、モールス練習帳と同様にWebブラウザ上で動作します。アプリのタイトルにもあるように、日替わりで課題が更新されるのですが、練習開始当初は試験前で追い込まれていたこともありややボリュームが少ないと感じていました。しかし、今思い返してみればオーバーワークにならないよう練習量を適正な範囲に収めることができ、良かったのかなと思います。また、練習課題に緊張感をもって取り組むことにもつながったように思います。

日替わり 通信術練習(モールス受信)

試験の電報形式に対応するためには、やはりある程度の慣れが必要です。この練習では、大学ノートではなく、情報通信振興会から購入した受信用紙に筆記して練習しました。試験では、和文、欧文(普通語・暗語)のいずれも2通の電文が送られてきます。和文は配られた枚数ぴったりの用紙を消費しますが、欧文は収めようと思えば1通を1枚に収めることが可能です。1通が2枚以上に泣き別れになると、次葉に移る際にどうしてもタイムラグが生じて誤字脱字を生みやすくなるため、練習の段階で1通を1枚におさめられるようにしておいた方が良いかもしれません。

額表形式の特訓

電報形式の練習を始めると、欧文は概ね上手く筆記できるようになっていったのですが、和文に伸び悩みを感じました。本文部分はそれなりに取れるのですが、字数・発信局・番号・受付時刻・名あてで構成される額表部分で大きく点数を落としがちだったのです。この部分を集中的に練習することができるのが、JI1JDI氏が開発・公開されている「モールス練習帳(電報編)」(https://ditdah.undo.jp/denpo-trainer/)でした。このアプリを活用して試験直前2週間ほど額表の練習をやり込むことで、和文電報形式でなんとか合格レベルの点数を取れるようになりました。

モールス練習帳(電報編)和文 額表モード

なお、JI1JDI氏はこれ以外にも様々なモールス電信に関連するアプリを開発して、公開されています(https://ditdah.jp/ditdah-apps/)。ここで紹介した以外のアプリを活用して練習するのもよいと思います。

送信練習

送信練習は、受信の定着練習が進んで符号を一通り覚えた段階で始めてしまってよいと思います。受信練習がある程度進んで符号のリズムを覚えてから、という説もありますが、一総通合格レベルの送信技能に到達するまで練習するのであればいずれの方法でも大きな差は生じないのではという印象です。

送信練習には、情報通信振興会の「欧文電報送信練習帳」「和文電報練習帳」を使用しました。自分が送信した符号がしっかりと規則に従って送信できているかどうかを確認するには、まずモールス電信の技能を持っている人に聞いてもらうという方法が挙げられるかと思いますが、一総通合格レベルの練習には相当の時間を要するため、それほど長い間練習に付き合ってくれる人を探すのは現実的ではありません。自分で練習した符号を録音して、それを後から聞き直して正しく筆記できるか検証するというのも一つの方法ですが、これはこれで時間がかかります。筆者は、JA3CLM 高木氏が開発・頒布されている Digital Sound CW (https://ja3clm.sakura.ne.jp/)というソフトウェアを使用しました。このソフトウェアはもともと、アマチュアのモールス電信による交信をサポートするために、自動でモールス符号を送信し、また受信したモールス符号をデコードするために開発されたものです。このソフトウェアのモールス符号のデコード機能を、自身が打鍵した符号が正しいものになっているかの検証に活用しました。キーヤーのサイドトーンを音声信号として入力すると、Digital Sound CW が文字にデコードして表示してくれます。表示された文字列と、課題の電文を比較することで、符号の正誤や符号間・語間のスペースが適正かを確かめることができます。なお、このソフトウェアは頭が良いので、ある程度乱れた符号でもデコードしてくれることには留意が必要です。

Digital Sound CW

受信・送信練習を進めるにあたって

受信の練習も送信の練習も、練習の成果はなかなか出づらいものです。特に一総通の場合、要求される技能がかなり高いため、そこに至る道のりは平坦ではありません。筆者も、毎日練習を続けていても、なかなか技能が向上しなかったり、むしろ低下したように感じられる時がありました。そのようなときは、少し練習を休んでみることも重要かと思います。もちろん、可能な限り毎日練習した方が良いと思いますが、あまりにも毎日練習しなくてはという思いにとらわれて練習そのものが苦痛になってしまっては、やがて挫折に至ってしまうかもしれません。ほどほどの負荷を掛けつつ、大変さを感じながらも、楽しんで練習に取り組むことが重要だと思います(とはいえ、試験直前はそれなりに追い込まれましたが……)。

どの程度の練習期間を見込むべきか

合格レベルの技能に至るまでにどの程度の練習期間が必要かというのは多くの方が気になる部分だと思います。ただ、この問いに対して筆者ははっきりした答えを持ち合わせていません。というのも、技能習得のスピードは個々人の適性や素養によって大きく異なるものであり、一概に x 時間練習すれば十分な技能を身に付けられると言い切ることが困難であるからです。また、モールス電信の練習のためにどの程度の時間を拠出できるかも様々です。可処分時間は、職業、家庭の形態、生活リズムなどによって大きく変化します。「y さんは n か月の練習で合格した」というような言説にとらわれて、n か月以内に合格しなくてはという強迫的な思いに駆られる必要はありません。筆者の練習期間も書きはしましたが、あくまでもこういう練習期間で合格した事例もある、という程度にとらえていただければと思います。

とはいえ、全く目安になる練習期間が分からないのも、茫漠としていて練習に取り掛かりづらいものです。一つ目安になりそうなのが、一総通の電気通信術が卒業によって科目免除となる学校の修業年限です。現在、一総通の電気通信術が卒業によって免除になるのは、各道県が設置している水産高校の通信関係の学科の専攻科です(https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/operator/001.pdf)。高校の修業年限は一般に3年ですが、専攻科はさらに2年間の修業を要し、合計5年間の教育を受けることになります。職業通信士を養成するカリキュラムでも5年の期間が設定されていることは心に留めておいてよいでしょう。

筆記試験科目の対策

前節でだいぶ長く電気通信術の練習について述べましたが、この節では筆記試験科目の対策について触れます。といっても、簡単に触れる程度です。一総通の電気通信術の対策を乗り切れる方は、きっと筆記試験も乗り切れることと思います。

無線工学

一総通の無線工学とはまともにやりあわず、一陸技の免許保有を根拠とする科目免除を受けることを強く推奨します。電信を練習しながら一陸技の対策にも取り組み、一陸技に合格した後で一総通の工学以外の筆記試験対策に取り組む、というような進め方をしてもよいと思います。

法規

「総合無線通信士」なので、船舶局関連の問題と航空機局関連の問題の両方が出題されますが、ほとんどは船舶局関連の問題です。第三級以上の海上無線通信士の法規の試験範囲を学習することで、一総通の法規で合格点を得ることは可能です。一総通の法規用のテキストは存在しないので、三海通のテキスト(情報通信振興会のテキストオーム社のテキスト)を利用するとよいでしょう。

英語

おそらく筆記試験の中で一番対策がやりづらい科目だと思います。というのも、一般的に無線従事者国家試験の筆記試験は過去問を利用した演習が非常に効果的に作用しますが、英語の場合は過去問の焼き直し問題があまり出題されない傾向にあるためです。実用英語技能検定の準2級から2級、あるいは素直な問題を出題する大学の入学試験程度の問題が出題されるという印象を筆者は受けていますが、これは各自で頑張っていただくほかないというのが実際です。

問題文の文法はそれほど高度なものではありませんが、海上交通あるいは航空交通に関する語彙・シチュエーションへの理解をある程度持ち合わせていると問題が解きやすくなります。筆者は一総通受験以前に小型船舶操縦士の免許を取得していたのですが、この際に学習した知識は大いに役立ったと感じています。また、えるまー氏が航空通を受験された際の受験記(【受験記】航空無線通信士 電気通信術とは)で『メーデー!:航空機事故の真実と真相 (AIR CRASH INVESTIGATION)』の視聴を推奨していますが、こういった対策の方法もあるかもしれません。

また、これは法規にも共通して言えることですが、三海通と一総通の英語の試験問題はかなりの部分が共通しています(特に英会話は全く同じ問題です)。腕試しとして三海通を受験することも選択肢の一つだと思います。

地理

筆者は地理があまり得意な方ではないので、試験対策にもあまり力が入りませんでした。ということもあり、地理に関しては過去問を利用した演習がほとんどでした。過去6年分ほどの問題を集め、これを何度か解いてみるというものです。最初に見たときは全く知らない地名がどんどん出てきて面喰いましたが、6年12回分ぐらいの問題をやると、大体どこかで見たような地名がまた出題されているというような傾向が見えてきます。国内の通信交通地理に関しては、高等学校水産科の『海洋通信技術』の教科書にある程度詳しく書かれているのでこちらを参照してもよいでしょう。

モールス電信以外の電気通信術

筆記試験ではありませんが、ここでまとめて述べます。電話の受話送話は海通、一海特、航空特、航空通でも行われているため、この解説はそれらの体験記を書かれた方々に譲ります。モールス電信を試験合格レベルにできる人であれば何の心配もいらないと思います。直接印刷電信も同様です。ただし、これらを全く経験したことが無いというのも不安だと思いますので、これらを両方含む三海通での腕試しも検討してみてください。

試験当日

さて、ここまで非常に長々と書いてきましたがいよいよ試験当日の様子を記していきます。筆者は東京都中央区晴海にある「日本無線協会本部 試験センター」での受験となりました。ほかの会場の受験者の方の話を聞くと、試験執行の手順には試験会場間で差異があるようなので、参考程度に読んでいただければと思います。ちなみに、受験票はメールで各自にPDFで送信されます。これを紙に印刷して当日持参して試験を受けます。電気通信術の日程は受験票に記載されているのを見て初めて分かります。

受験票(筆者の住所氏名等は加工して抹消してある)

1日目(3月8日 電気通信術)

電気通信術は13:00からの開始となりましたが、試験に関する説明があるため15分前までには着席している必要があります。午前中には会場の最寄り駅に到着して試験までの時間をつぶしていました。集合時間の45分ほど前に試験室に入室しましたが、すでにかなりの人が着席して各々電信の練習をしていたりします。思ったよりも縦ぶれ電鍵を持ち込んでいる人が多い印象を受けました。筆者も何もしていないのも不安になってきたため、持ち込んだ電鍵を取り出して若干練習してみました。緊張でいつもより手が動かないのを感じます。これ以上練習してもさらに不安になりそうだったので早々に切り上げて、気持ちを落ち着かせることに専念しました。

告知通り試験開始15分前からの説明が始まると、否応なしに緊張が高まっていきます。最初に氏名と受験番号、生年月日を記入するためのマークシートが配布され、記入が終わるとすぐに回収されます。その後、いよいよ受信用紙が配布されます。用紙全てに試験種と受験番号、氏名を記入します。この際、練習用紙も一緒に配布されます。音量調節が終わると、試験は一気に進んでいきます。和文→欧文暗号→欧文普通語の順で進んでいきますが、それぞれ練習→本番の順で進みます。練習用電文は本番前のウォームアップ最後のチャンスですので有効に活用しましょう。参考までに、筆者が筆記した練習用紙を示します。和文は最初だったこともあって、特に緊張が強く文字がぐちゃぐちゃになっていたり、誤字もあったりします。指先に血が通わなくなって、思うように手が動かなくなったのを今でも覚えています。

和文の本文が終わったあたりで、やっと指先に血の気が戻ってくる感覚がありました。そこから先はもう必死に筆記した記憶しかなく、具体的にどのような電文が送られてきたかはほとんど覚えていません。

モールス電信の受信が終わった後に電話の受話、そして直接印刷電信と続きました。受話に関しては、モールス電信が高速だっただけにかなり余裕をもって筆記できたように記憶しています。直接印刷電信も特に問題なく終わりました。

さて、受信が終わった段階で一息つくことができ最高潮だった緊張も若干緩みましたが、送信の順番が近づいてくるとやはり緊張が高まってきました。そしていよいよ送信の試験が始まりました。試験執行員と一対一での試験ということもあり、まさに手に汗握る状態になっています。持ち込んだ電鍵を使用する旨を伝え、端子にキーヤーを接続して準備を整えます。まず最初に受験番号と氏名(和文で)を打電するよう言われるので、これを打とうとしたのですが、受験番号のしょっぱなで誤字を出してしまいました。幸い、この部分は採点対象ではないので、試験執行員の方も「もう一度どうぞ」という感じで進めてくれました。これが打ち終わると、多分落ち着かせてくれようとしたのだと思いますが「上手いですねー」と声を掛けられました。しかし、もはやそんなことはお構いなしに緊張しきりです。試験課題の電文が手渡され、好きなタイミングで始めてくださいと言われます。和文からスタートし、欧文暗号、欧文普通語と進みました。おそらく誤字はほとんど出さなかったと思いますが、訂正は連発し、あまつさえ訂正符号の訂正を打つような状態でした。各課題が終わるたびに、試験員の方が「落ち着いてね」と言っていたのが印象に残っています。送信がすべて終わったところで、各課題の送信に要した時間を教えてくれました。和文は5分1秒でギリギリ、欧文暗語は4分20秒、欧文普通語は4分45秒だったようです。力が入りすぎてるからもう少しわきの下あたりの力を抜いたほうが良いよという講評も受けました。その後、欧文電話の送話を行って1日目の試験は全て終了しました。電気通信術の試験の終わりに、試験員の方から「受信はどうでしたか?」と聞かれて、「多分大丈夫だったと思います」というようなことを答えたところ、「じゃあ通信術は大丈夫かな」というようなことを言われました。暗に、送信は合格水準だったことを教えてくれたのだと思います。

2-3日目(3月10-11日 法規・英語・地理)

電気通信術が終わってしまうと、もはや残りの科目は合格点がとれさえすればいいかというような気持になっていました。地理で、選択肢に一つも知っている地名がない問題がいくつかあってヒヤッとした以外はそれほど問題なく終えられたように思います。ちなみに、一総通の受験者が最も多いのは電気通信術のようで、2日目以降の科目はほかの試験種と試験室が同一になっていました。

結果

3月29日にメールで結果発表の通知があり、合格を勝ち取ることができました。

試験結果通知書(筆者の住所氏名は加工して抹消してある)

結果通知の当日に、日本無線協会へ得点開示請求書を郵送し、4月5日に得点開示通知書を受領しました。以下に受領した開示通知書を示します。筆記試験は自己採点の結果と全く同じでしたが、電気通信術は幾らか体感と異なる部分がありました。まずモールス電信の送信ですが、相当な回数の訂正符号を打鍵した覚えがあり、もう少し引かれるのかと思っていました。しかし、最大でも5点の減点に収まっています。15回の訂正で5点減点になりますが、誤字を打鍵したり脱字をしたりした記憶はないので、おそらくすべて訂正によるものだと思います。モールス電信の受信については、和文でかなり失点していることが分かります。体感としては70点ぐらいは取れたかなと思っていたのですが、40点減点の60点でした。誤字と品位でそれなりに引かれたのかと推測しています。試験自体には合格しましたが、和文の受信はまだまだ練習が必要なのだと思います。

得点開示通知書(筆者の氏名は加工して抹消してある)

(2022年4月22日追記)免許証も届きました。うれしい。

第一級総合無線通信士の免許証(免許証番号、氏名および写真は加工して抹消してある)

おわりに

一総通が必要になる場面は果たして存在するのかというのはしばしば議論になるところです。Google で一総通と検索するとサジェストに「オワコン」と出てきたりもします(少なくともコンテンツではないと思いますが)。確かに、モールス電信の技能が求められる場面は皆無に近い状態となっており、残された少ない場面も今後さらに縮小していくことが見込まれます。では、なぜ一総通が欲しいのかと問われると、やはり資格として現に存在し、全ての無線設備の通信操作が可能になるという免許への、ロマンにも似た憧れが動機になっているというのが答えでしょう。この資格を使って何か得をしようと思うと、ほとんどの場合、期待は外れると思います。しかし、モールス電信の技能をコツコツと高め、かつてのモールス電信華やかなりしころの通信士の腕前に一歩近づけたという経験、そして合格の暁に免許証を手にした時の達成感は、何物にも代えがたいものではないかと思います。

この受験記を読んで、今後一人でも多くの方が一総通に挑戦し、また合格されることになれば、筆者としてはこの上ない喜びです。

謝辞

筆者が一総通受験を決意したのは、2019年夏コミで同人誌を頒布していた際に、当サークルスペースを訪れた一総通をお持ちの方との雑談の中で、受けてみてはどうですかと勧められたのがきっかけでした。どなただったのかは存じ上げないのですが、この一言が無ければ筆者の挑戦は無かったかもしれません。ご本人に伝わるか分かりませんが、この場で御礼を申し上げます。

電気通信術の練習用ツールを開発し、公開してくださった皆様には頭が上がりません。これらのツールなしに一総通合格は成しえませんでした。深く感謝を申し上げます。また、一総通に挑戦され、その体験を受験記として残してくださった皆様にもお礼を申し上げる次第です。

また、電気通信術の練習にあたって、ともに一総通合格を目指す仲間の存在は大変力強いものでした。長期間にわたって独習による訓練を続けるには、モチベーションの維持が大きな課題となります。一人黙々と練習を続けるのは、先が見えずなかなか大変なものです。そんなとき、Blog や Twitter 上で一総通への挑戦を書き記している方を発見して、フォローさせていただきました。情報を交換したり、あるいはリプライを飛ばさないまでも練習の状況を互いに公開したりといったやり取りは、合格するために練習を続けなければという思いを強固にしてくれました。えるまー氏と出会えたことは大変な幸運でした。先に公開されたえるまー氏の受験記の中で、私のことを「戦友」と呼んでくださいましたが、私も同じく「戦友」だと思っています。本当にありがとうございました。

同じく Twitter 上で電気通信術の練習状況を公開されている、七木(@MRTM_RDO_OPR)氏にも深く感謝を申し上げます。投稿されている練習状況を見て、私も練習しなければと思った場面が何度もありました。同時に、上級無線従事者資格への挑戦も陰ながら応援しております。ほかにも、Twitter 上では非常にたくさんの方々に、有形無形の支援を頂いたと思っています。一言で済ませてしまうのは大変恐縮ですが、心から感謝を申し上げます。

最後に、一見してよく分からない資格への挑戦を放置してくれた両親にも感謝したいと思います。独身実家暮らしアラサーの身にして、家にこもっては通信術の練習をしているのはさぞ異様だったのではないかと思いますが、これを放置してくれたのも一つの応援の形だと思っています。ありがとうございました。

本受験に要した受験料(21,200円)は、筆者の勤務先の自己啓発援助制度によって支給を受けたものです。

狭間タスク(@JE1JGI

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